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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)8330号 判決

原告(反訴被告) 泰隆株式会社

右代表者代表取締役 藤江永雄

右訴訟代理人弁護士 森英雄

被告 ロイド・インキ株式会社

右代表者代表取締役 新田清

被告 ロイド株式会社

右代表者代表取締役 岡根幸助

被告(反訴原告) ジャパンスタンダード株式会社

右代表者代表取締役 栗原良一

右三名訴訟代理人弁護士 菊地政一

同 増沢照久

主文

一、被告らは、原告に対し各自金二〇、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三九年一月一日以降支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、反訴原告の請求はこれを棄却する。

三、訴訟費用は、反訴によって生じた分は、反訴原告の負担とし、その余は被告らの連帯負担とする。

四、この判決は、第一項に限り、原告において各被告に金五、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供して、仮りに執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

第一、本訴請求についての判断

一、原告と被告らがいずれも原告主張の営業を目的とする会社であること、昭和三三年九月三日、原告と被告ロイドインキとの間に、原告主張どおりのインキ製品の継続的取引契約が成立したこと、さらに昭和三五年一月一日、右契約内容に、商品の種類を増加し、原告の独占販売権を持つ地域を一五ヶ国に拡げ、契約期限を二年としたうえ、その間の取引数量を最低一〇〇、〇〇〇ダースとするなどの変更を加えたこと、被告ロイド・インキが昭和三五年初頭経営不振となり、同年二月二〇日同一場所に被告ロイドが設立され、被告ロイドインキの工場を使用して営業を開始したこと、昭和三五年五月一九日被告スタンダードが設立されたこと、以上の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二、次に被告三社の関係について判断するに、≪証拠省略≫に前記争いのない事実を総合すると、三社とも主たる製品は、ロイド・マーキングを付したインキ類であったこと、そうして右商標の大部分の登録権者は、新田清、洋右の兄弟であったこと、被告ロイドインキと被告ロイド、被告ロイドと被告スタンダードとは、それぞれ前者の経営破綻ないしは輸出部門の一部独立などの事由が後者設立の動機であり、その点に関しても三社は互いに深い関連があること、従って、被告ロイド・インキと被告ロイドとは共通の「ロイド」という名称を使用したうえ、同一場所で、同一施設を使い、同一製品を生産していたし、本社の所在も同一であったが、のちに被告ロイドは、被告スタンダードと同一番地に本社を移していること、被告三社の代表取締役らは、短期間に交代し、共通の名前は見当らないが、登記簿上のそれがそのまま実権を握っていたわけではなく、昭和三三年から三六年の七月にかけて、少くとも営業面で代表的な実権を持って事務をとっていた者は、新田兄弟、矢沢順二、柴田次郎らの間からでており、従ってセントロバ社と被告三社との折衝は、いつも同人らが行っていたことが認められ、結局被告三社間特に被告ロイド・インキと被告ロイド、被告ロイドと被告ジャパン・スタンダードとの間には、人的、物的両面とも、極めて密接な関係が存したものと認められる。以上の認定に反する証人新田洋右の証言および証人矢沢順二の証言ならびに被告ロイド・インキ代表者本人尋問の結果の各一部はいずれも信用できないし、他に右認定を覆えすだけの証拠はない。

三、次ぎに、原告と被告三社との取引関係について判断する。

≪証拠省略≫を総合すると、原告と被告ロイドとの直接の取引は、遅くとも昭和三五年五月ころから初まり、同三六年六月まで続き、一方原告と被告スタンダードとのそれは、遅くとも昭和三六年二月末ころから開始されていること、それらの商品はいずれも原告とセントロバ社間の独占販売契約に基づき同社に対し輸出される品であり、且つ、同社が昭和三六年度に原告を通じて輸入する量は一〇〇、〇〇〇ダースの予定であったこと、被告らは、契約上からも、またセントロバ社の代表者が来日したさい共に折衝していることからしても、右の原告とセントロバ社との関係を知悉していたこと、一方、原告が、昭和三六年三月から五月までの間に、被告ロイドと被告スタンダードから買い受けた数量は、合計すると年間一〇〇、〇〇〇ダースのペースであったこと、被告スタンダード単独の取引量は、右のペースよりはるかに少なく、昭和三六年六月以前でも契約した量に満たないが、同社は取引量が前記ペースに満たなくなったのは六月以降であると考えていたこと(乙第一号証)が窺われ、そうすると結局原告と被告三社との取引は、それぞれ別個のものではなく、三社の売り渡した合計が、昭和三六年度で一〇〇、〇〇〇ダースであればよいとの趣旨であったと認められる。甲第二号証の記載も、前掲の各証拠と対比するとき、原告と被告ロイド・インキおよびロイドとの取引を前提にしての契約と認められ、原告と被告スタンダードとの関係を期間に定めたものとは考えられず、又前記認定に反する証人矢沢順二、新田洋右の各証言および被告ロイド・インキ代表者新田清本人尋問の結果は、いずれも信用できないし、他に前記認定を覆えすだけの証拠はない。

そうして右に認定した事実に、前記被告三社間の関係および原告と被告らが、いずれも商人で、本件取引契約が、商行為であることをも合わせ考えると、当初原告と被告ロイドインキとの間で始まった本件契約は、遅くとも昭和三六年二月ころには、被告三社との契約となり、被告らは、原告に対し、右契約上の債務を、連帯して負担するに至ったと認められる。けだし、右債務負担行為は、順次なされたもので、一個の行為すなわち共同でなされたものではないから、商法五一一条は、直接適用できないけれども、本件契約により、右のように人的、物的に密接な関係を有する被告三社が結局一体となって、一定量のロイドマーキングを付したインキ製品を原告に供給するわけで、しかもそれにはヨーロッパ一六ヶ国での右商品の独占販売契約が付随しているのであるから、右商法の規定の趣旨を汲み、格別の事情がない以上、本件の場合も、連帯債務と認めるのが相当である。

四、次に、原告は、予定の数量が捌けなかったのは、被告らが契約上の債務を履行しなかったためであると主張し、被告らは原告が品質の悪い類似品を他で作らせ、販売したためであるとこれを争うので以下その点について判断する。

≪証拠省略≫を総合すると、セントロバ社が独占販売権を得た直後からベルギー、オランダ、フランス、西ドイツ、スイスなどの各地で、同一商標のもの、同一の商品であるが商標だけ変えたもの、あるいは類似した形のものが、原告セントロバ社以外の経路で、しかも安価に売られ、原告側からの再三の申し入れ、被告側からの保証状の提出にもかかわらず、そのような状態が続き、被告ロイド、被告スタンダードが当事者となっても事態は改善されぬまま、結局本件独占販売契約は実効がなくなり、昭和三六年七月に至って、遂に原告と被告らとの取引が中断するに至ったこと、そして右の製品はいずれも、被告らが製造した商品であることが窺われるのである。

ところで原告と被告らとの取引契約は、前認定のとおり、独占販売契約なのであり、被告らは、保証状を提出するまでもなく、原告に独占販売権を与えた国には、それ以外の経路で直接当該商品を輸出してならないのは勿論、間接的にも、たとへばアメリカ向に輸出したものがさらに独占販売権を与えたヨーロッパの国に再輸出されたりすることのないよう努めなければならないことはいうまでもない。ましてや、いずれも成立に争いのない≪証拠省略≫によると、被告らは、原告もしくは直接セントロバ社との間に、右の義務を確認し、積極的に独占市場の混乱防止につき尽す債務を負担しているのであるが、しかし、被告らが、そうした努力を払ったことを認めるに足る証拠はなく、その他本件全証拠によっても、前記経路外輸出が、被告らの責に帰すべき事由に基づかないでなされたとは到底認められないのである。

そうすると被告らは原告に対し、右契約上の債務不履行として、前記取引の中断によって、同社の蒙った損害を賠償しなければならない。

五、そこで以下原告の蒙った損害額について判断する。≪証拠省略≫を総合すると、もし被告側の右のような債務不履行がなかったとしたら、少くとも昭和三六年度の残り一〇、九五九ダース、昭和三七年度二〇〇、〇〇〇ダース、昭和三八年度三〇〇、〇〇〇ダース、以上の契約に規定した量だけは、原告は確実に、被告らから買い入れ、セントロバ社宛輸出することが可能であり且つ右取引によって、一ダース当り平均少くとも四五円の利益は得ることができたと認められる。そうすると結局原告は、昭和三六年度分金四九三、一五五円、昭和三七年度分金九、〇〇〇、〇〇〇円、昭和三八年度分金一三、五〇〇、〇〇〇円のいわゆる得べかりし利益を、被告らの債務不履行によって失ったことは明らかであり、且つ右利益は遅くとも各年度の末日までに得ることができたであろうと推認されるから、被告らはいずれも右各損害の支払いにつき、翌年の一月一日には遅滞におちいったものと認められる。(債務不履行による損害賠償の弁済期につき特に定めのないときは債権者より請求のあったとき債務者は遅滞におちいるものなるところ本件訴状の副本が昭和三七年一月二三日被告らに送達されていることが本件記録上明らかであるから被告らは少くとも原告の請求する昭和三九年一月一日より履行遅滞におちいるものと言わなければならない)右認定を覆えすだけの証拠はない。

そうすると、特別事情による損害については判断するまでもなく、被告らは、各自原告に対して、昭和三六年、三七年度分の損害全部、三八年度分の損害の一部一〇、五〇六、八四五円、合計金二〇、〇〇〇、〇〇〇円と、これに対して前記被告らが右損害の全部につき遅滞におちいったことの明らかな昭和三九年一月一日以降右金員支払いずみに至るまで、少くとも年五分の割合による法定遅延損害金を支払わなければならないことは明らかである。

第二、反訴請求についての判断

被告(反訴原告)スタンダードは、昭和三六年七月に至って、原告(反訴被告)が取引を中止したのは、同社が、大阪の訴外寺西化学工業株式会社らに、ロイド・マーキングの商標を付した商品を作らせ、セント・ロバ社に売り渡すようになったためであると主張し、証人新田洋右の証言にはその趣旨にそう部分もあるけれども、右証言は前記本訴請求を認定した証拠に照し措信できない。前認定のとおり、原告が取引を中止したのは、原告セント・ロバ社以外のルートから、ヨーロッパ諸国に、当該商品が流れ、独占販売の実効が維持できなくなったためで、それが原告の責に帰すべき事由に基づかないことは明らかである。

従って、被告スタンダードの反訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当として棄却すべきである。

第三、むすび

そうすると、被告ら各自に対し、金二〇、〇〇〇、〇〇〇円と、昭和三九年一月一日以降支払いずみに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める原告の本訴請求は正当であるからこれを全部認定し、被告ジャパンスタンダードの反訴請求は、失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九三条第一項但し書き、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 地京武人 裁判官 大沢博 鈴木経夫)

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